「お兄ちゃん!後ろ!」

 モンスターとの交戦中。俺は、ミカに言われて後ろの敵に気づいた。
 左手で前方の敵を抑えながら、右手で後方の敵を切る。ミカに言われなければ、俺は確実に攻撃されていた。振り向いたら、前方の敵はイーヴリンが切っていた。

「ミカ、お前も背後に気をつけろ・・・!?」

 俺が見たのは、ミカが倒れる瞬間だった。背中から血が流れている。ミカの後ろには敵がいた。

「ミカ!」

「お・・・にいちゃ・・・ん」

 ミカが完全に地に伏せた。

「ミカぁー!!」


昔と同じ


 俺は勢いに任せて敵を切り倒す。
 ミカのそばに駆け寄って、ミカを抱きかかえる。

「ミカ、しっかりしろ!」

 少し離れたところで戦っていたルルとバーガー、ユーテキもやってきた。

「ザウちゃん、ミカちゃん死なないよね?」

 ルルが、悲しそうな声で問いかける。

「死なない・・・。いや、死なせない、絶対に!」

 とは言っても、かなりの出血量。アップルグミやレモングミを食べさせた程度では、治らない。

「どうすれば・・・。」

 こんなことをしてる間にも、ミカの背中からは血が滴り落ちている。

「ザウバー、落ち着きなさい。とりあえず、今は近くの町へ行ってミカを寝かせるのよ。」

「ここから近い町・・・。ティエラだ!」

「そこなら、ミカの家があるよ!早く行こう!」

 ユーテキ、イーヴリンが走り出す。続いて、俺とルル、バーガーの順でティエラに向かった。



「ミカ・・・死ぬなよ・・・。」

 とりあえずアップルグミを食べさせ、応急処置を済ませて、ミカをベッドに寝かせる。
 すると、ミカの目が開いた。

「お兄ちゃん・・・?」

「ああ、そうだよ。ここにいるから。ミカ、あまり喋るな。」

 ミカの手を握ると、安心したように目を瞑った。

「ザウバー、この町に医者はいないみたいだから、他の町にいってくるわね。」

「だったら、俺も!」

 立とうとすると、強い力に引っ張られた。

「お兄ちゃん・・・行かないで・・・。」

「・・・わかった。」

「それじゃ、ミカのこと頼むわよ。」



 時間が経つと、ミカの息が荒くなってくる。そのたびに、俺はアップルグミを食べさせた。
 グミでも、少しは楽になるらしい。

「お兄ちゃん・・・イヴたち・・・遅いね。」

「そうだな。」



「お兄ちゃん?・・・泣いてるの?」

「泣いてないよ。」

 涙を拭いて、作り笑いを見せた。

「昔も・・・こんな事が、あったね。」

「昔か・・・。ミカが熱を出して。しかも、母さんと父さんは出張中で。」

「お兄ちゃん、すごい戸惑ってたよね。」

 ミカは笑いながら話す。俺に心配をかけさせないためだろう。
 少し昔のことを思い出してみることにした。


「お兄ちゃん・・・あのね。ミカ、お熱あるかな?」

「熱・・・?」

 確かに、少し顔が赤い。俺はミカの額に触れた。

「熱いっ!ミ、ミカ、お前・・・。」

「ふらふらする〜。」

 俺は、ミカを抱きかかえて部屋まで走った。ミカをベッドに寝かせると、対応策を考えた。

「そうだ、まずは母さんか父さんを呼んで・・・。」

「おにいちゃ・・・ママとパパはおでかけだよ・・・。」

 そうだった!母さんと父さんは出張で、今日帰ってくるって。早く帰ってきてくれよ・・・。

「そ、それじゃ・・・薬は?ミカ、どこにあるか知ってるか?」

「わかんないよぉ。」

「ちきしょー。町で買ってくるしか・・・ないか。よし、ミカ、お前は寝てろ!すぐ戻ってくるからな。」

 俺は町へ走った。



「お兄ちゃん、あのあと・・・本当にすぐ戻ってきたよね。」

「ああ、町の薬屋へ行って、薬を買って、走って帰ったからな。」


「ミカ!大丈夫か?」

「お兄ちゃん・・・お帰り。」

 ミカはベッドに寝たままだった。

「薬、買ってきたからな。」

 薬と水を用意して、ミカに飲ませる。

「お薬・・・苦い・・・。」

「我慢しろ!あとは、静かに寝てろよ。」

「うん。」



「ザウバー!いる?」

 イーヴリンの声がした。

「ああ、いるよ。」

「医者を連れてきたわ。とても有名な名医だそうよ。」

 部屋に入ってきたのは、女医だった。とても若そうだが・・・20代前半か少し上くらいだろう。

「あとは私に任せてください。」

 俺達は部屋をあとにした。



 数時間後、女医が部屋から出てきた。

「素晴らしい応急処置のおかげで、傷を縫うだけで終わりましたよ。このあとは、しばらく安静にしていればすぐに傷は治ります。」

「よかった・・・。」

 イーヴリンがホッとしたように言った。
 俺は、急いで部屋に入る。



「ミカ?」

 ミカはベッドに寝ていた。

「お兄ちゃん!心配かけてごめんね。」

「別にいいよ。ミカが無事でよかった。」

 ミカの額を撫でる。

「あとは安静に寝てろよ。」

「お兄ちゃん・・・昔と同じこと言ってるね。」

「そうだったか?」

「うん、そうだよ。」


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後書き
傷の話が多いなぁ・・・。
とにかく、お兄ちゃんは心配性みたいな感じが好きってことですよ。

11/05(日) セリハ