「ミカの夢?秘密だよ!」

 昔、ミカに将来の夢を尋ねたことがあった。そのとき、ミカは秘密と言って、答えを教えてはくれなかった。その後も、何度か尋ねたことがあったが、毎回毎回、元気な声で返してくれるのは、同じ言葉だった。

「秘密だよ!」

 今でも、まだ夢を語ってくれることは無い。兄として、どうしても気になる素朴な疑問だった。


秘密の夢


 俺が兄であると知られて、一週間が経った。まぁ、知られる前でも聞きたかったわけだが、さすがに他人のふりをしているときに聞くのはどうかと思った。兄であるとばれて、これで心置きなく聞ける・・・と、思った。
 が、実際はそんな簡単なことではなかった。ミカは、俺と全くと言っていいほど喋っていない。死んでいると思っていた兄であると言われても、気軽に話せるものではないのだが。さすがに、何も話してくれないと、少し寂しい。

「昔は、何かある度に話し掛けてきたんだが・・・。」

 つい、本音が出てしまった。

「何か言った?」

 ミカの顔が怖い。怒っているのだろうか。しかし、怒っているとしても、何に対して?俺が隠していたことだろうか。それとも、他に何か・・・。
 そんなことを考えていると、イーヴリンが話し掛けてきた。

「ザウバー、少しミカに話し掛けてあげたらどう?ミカ、久しぶりの兄との対面で緊張しているのよ。」

「きんちょう・・・?」

 怒っているわけではないのだろうか。ただの緊張?

「何、気づいてなかったの!?兄弟そろって鈍感ね。」

「ド・・・!」

「とにかく、美香に話し掛けるの!わかったわね?」

「あ、ああ。わかった。」

 言われるがままに、俺はミカに話し掛けた。

「ミ、ミカ?」

 少し、声が震えたような気がした。

「何?」

 ミカは振り返らずに答えた。

「昔・・・俺がお前に、将来の夢について聞いたの、覚えてるか?」

 思い切って、聞いてみることにした。

「うん、覚えてる。あたし、いつもいつも秘密って答えてた。」

 答えは、意外にも優しい声で返ってきた。それを聞いて、少しホッとした。

「今聞いても、まだ秘密か?」

「あたし・・・夢、叶わなかったよ。」

 声からして、泣きそうであることがわかる。何かいけないことを聞いただろうか。
 急にミカが振り向いたかと思うと、俺に抱きついてきた。

「あたしの夢は・・・強くなって、お父さんも、お母さんも・・・おにいちゃんも、守ること。でも・・・できなかった!みんな守れなかった!おじいちゃんも・・・守れなかった・・・。」

「あのときのお前は幼かった。だから、家族全員を守るなんて、荷が重すぎた。守れなくて、当たり前だ。」

「でも・・・っ!」

 ミカが顔を上げた。その顔は、涙で濡れていた。

「まだ、俺が生きてる。だから、今度は、俺を守ってくれないか?俺だけだから、荷が重くはない。俺一人だったら、ミカでも守れるだろ?」

「うん・・・、わかった。でも、その代わりに、ザウバーはあたしを守って!絶対に。」

「わかった。」

 ミカの顔から、涙が消えた。ようやく、ぎこちなさがとれた。そんな気がした。

「さ、そろそろみんなのと・・・ころ・・・へ?」

 辺りを見回しても、誰もいなかった。置いて行かれたのだ。

「どうしてイヴもユーテキも、みんないないのよっ!」

「くそ、置いてかれた!ミカ、急げ!」

「あれ・・・なんか、ザウバー・・・昔の口調に戻ったみたいだね。」

 急に指摘されて、俺は少し、頬を赤らめた。

「そうか・・・?それより、その・・・“ザウバー”って呼ぶの、やめないか?昔みたいに

「お兄ちゃん!」

 俺の言葉は、最後まで続けることを阻止された。ミカの呼びかけによって。それは、俺が続けようとしていた言葉と全く同じ言葉であった。

「でしょ?」

「ああ、そうだ。」

 ミカは、昔のように笑顔で答えてくれた。それに答えて、俺も出来る限り笑って見せた。

「急ごう、お兄ちゃん。」


 急いで走って、みんなに追いつくことが出来た。さほど離れてはいない場所にいた。

「遅い!何してたのよ。」

 イーヴリンから喝を喰らった。
 ふと、みんなが俺達の表情の変化に気づいた。

「何か・・・あったの?」

 俺達は顔を見合わせ、こういった。

『秘密!』

 昔のような、仲のいい兄妹に戻れそうな気がした。

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後書き
夢って言うよりは、目標?な感じする・・・。

なんかもう、兄妹どころじゃない!
兄妹以上恋人未満みたいな感じ?
このままの勢いで行くと、そのうち恋人まで発展しそう・・・。
いや、発展させる!!

04/16(月) セリハ